2013-03-06

温体制、民心なき10年「官と官はかばい合い、官と商が結託する」

 有人宇宙飛行や高速鉄道などで突破口を開き、北京五輪や上海万博を成功させた――。
5日、全国人民代表大会(全人代)で首相として最後の政府活動報告を行った温家宝(ウェンチアパオ)首相は胸をはった。しかしその陰で、期待を置き去りにされた民衆の失望は深い。
 
■陳情したら拘留
 真夜中の山道に、三十数人の農民がひざまずいた。昨年9月8日午前2時すぎのことだ。温首相の車列が迫っていた。
 中国雲南省北部の彝良(いりょう)県。その前日にマグニチュード5・7の地震が襲い、80人以上が犠牲になった。農民たちは軍が拠点にする大型テントの設置にかり出され、川沿いの村まで戻る途中だった。
 「北京から指導者が視察に来るらしい」。誰かが聞きつけ、陳情を試みようという話になった。自分たちの農地が、地元政府に安く買いたたかれたことに、怒りがたまっていた。
 農民の胡衣靱さん(65)が当時を振り返る。二十数台の車列の何台目かが止まり、小柄な初老の男性が出てきた。温首相だ。「平民総理」と慕われていた。みなの表情が明るくなった。
 「何事ですか。立ち上がってください」。温首相が語りかけると、農民の中で標準中国語が上手な女性の梁永蘭さん(29)が前に出た。農地が工場建設のため安く強制収用され、抗議した83歳の老人を含む17人が拘束された、と訴えた。
 「あなたたちの行動は法にかなっている」。温首相は1枚の紙を取り出し、梁さんに名前と村の地名を書かせて、言った。「責任者に調査させ、必ず満足出来る答えを出す」
 
 だが、11月19日夜。梁さんが自宅でテレビを見ている時だった。十数人の私服警官が押し入ってきた。令状も何もない。連行され、7日間の拘留を告げられた。陳情したうちの4人の農民にかけられた容疑は、以下のようなものだ。
 「温首相の車列の通行を妨げたことは、深刻な政治的影響をもたらし、社会に悪質な影響を与えた」
 「温首相と話したのは、3~5分程度だった」。梁さんは車列以外に通行する車はなかったとも主張したが、聞き入れられない。
 梁さんは9カ月前を思い出した。土地収用に抗議したら4人の警官に殴られ、5日間拘留された。「納得できなくても、受け入れるしかない」。恐怖心から書類にサインし、拘留された。
 1千元(約1万5千円)の保釈金を払い、翌日夜に釈放されて知ったことだが、実際に拘留されたのは自分1人だった。見せしめだったのかもしれない。
                                            朝日新聞(2013/03/06朝刊)