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■10万円使う夫婦
福岡市のJR博多駅近くの大型パチンコ店。大音量に包まれる満席の店内で、韓国語が聞こえてきた。
自営業のチョ・ソンクンさん(37)とその妻(36)。スロットコーナーで、人気の台が空くのを待っているという。
日本のパチンコ店を紹介する韓国のインターネットサイトを調べ、3泊4日で来日した。「買い物や食事もするけど、パチンコが一番の目的」と言う。パチンコ歴は10年ほど。禁じられる以前は、毎週通った時期もある。日本まで打ちに来たのは半月前に続いて2度目だ。
1日目は6時間、夫婦で10万円の負け。この日は2日目。4時間で1万円を失った。「日本は液晶が華やか。明日もやりますよ」と夫婦は笑った。
店の前で2時間ほど出入りする客に声をかけると、10組以上が韓国人だった。
福岡県を訪れる韓国からの観光客は年間30万~50万人。旅行会社によると、航空券とホテルだけの予約で来日し、大半をパチンコ店で過ごす客も多いという。
韓国で「成人娯楽室」と呼ばれるパチンコ店が禁じられたのは2006年。最盛期には1万5千店に上ったが、1時間に300万~400万ウォン(約25万~約34万円)勝てる機種の登場後、依存症が社会問題化した。
1億ウォン(約860万円)の借金をつくった30代の男性が自殺。150万ウォン(約13万円)を失った男が店に放火。親のクレジットカードで数千万ウォンを使い込んだ大学生もいた。政治家と業界の癒着も問題になった。
「成人娯楽室は庶民の生き血を吸う仕組み。禁止されなかったら被害者はもっと増えていた」。釜山の造船会社に勤めるイ・ジョンホンさん(63)は、かつて依存症に苦しんでいた。
成人娯楽室の多くは24時間営業。会社を休み、出前ののり巻きと無料のコーヒーで3日間、居続けたこともある。借金は6千万ウォン(約510万円)にふくらんだ。
今は政府が設立した地元の依存症治療センターに通っている。センター長のチェ・イスンさんはこう話す。「成人娯楽室は高齢者や女性など、それまでギャンブルに縁のなかった人まで巻き込んでしまった。ギャンブルはいったんはまると、複数のギャンブルに手を出す傾向がある」
韓国では今、ためたポイントを現金に換えられるルーレットやカードゲームなどの違法ネットギャンブルへの依存症が問題になっている。路地裏では暴力団がからむヤミ成人娯楽室もひそかに営業を続けている。(小寺陽一郎)
■業界、外国人に期待
「パチンコを観光資源に」「外国人観光客に『日本文化』アピール」。日本の業界紙には、こんな見出しが躍る。
都内の広告会社は2年前、掲載料を得てパチンコ店を紹介する外国人向けのホームページを立ち上げた。現在300店が登録。14年には1千店を目指す。
海外からのアクセスは中国、韓国の順で、両国で全体の7割。社長は「業界の底上げのため、本気で外国人観光客に目を向ける時期が来ている」と言う。
朝日新聞(2013/3/3 朝刊) → 「朝日新聞デジタル」のお申し込み