レ・コン・ビン選手 |
■Vリーグは今季、開幕を1月から3月に延期して再編成し、2チーム少ない12チームでのスタートにこぎつけた。下部リーグでも解散が相次ぎ、昨年の14チームが、今季は8チーム。
存続したチームも状況は厳しい。元ベトナム代表監督でVリーグ「ハノイT&T」を率いるフン監督(52)は「スタッフも選手も給料は2~4割減った」と打ち明ける。
経営基盤のもろさを露呈したVリーグは、日本に救いを求め始めた。昨年夏、運営ノウハウの伝達やスタッフの交流を行えるよう、Jリーグと提携関係を締結。2月には横浜FCの立ち上げなどクラブ経営の実績が豊富な田部和良氏(51)を、顧問役として呼び寄せた。
田部氏はベトナムでさっそく各チームの視察を始めた。オーナー企業に頼り切ったクラブ経営を改め、地域で支えるJリーグのような仕組みを採り入れられないかなど構想を練る。今年は日本とベトナムが外交関係を結んで40年。「サッカーでもいい関係が深まれば」と話す。
ベトナムのバイク市場で6割のシェアがあるホンダも動きだした。現地法人のホンダベトナムは2月4日、ベトナムサッカー連盟(VFF)や同国の代表チームとトップスポンサー契約に調印。VFF側の要請に、「ベトナムの人々と同じ夢を求め、チャレンジするのが創業以来の企業理念」と応じた。五十嵐雅行社長は言う。「弱くてもがんばる姿が、不況でも負けるもんかと踏ん張る我々と重なるんです」
■スター選手、月給が半減
チーム消滅で影響を受けたプロサッカー選手は、計約200人に及ぶ。生活のために車や家を売ったり、移籍活動のために結婚を延期したり。引退を余儀なくされた選手も多い。
スター選手も例外ではない。ハノイFC所属だったベトナムの代表的ストライカー、レ・コン・ビン選手(27)は高給がネックとなって移籍が難航、2月下旬、ようやく地元ゲアン省のソンラムへの移籍が決まった。報道によると、月給はハノイFC時代の約半分の13万円ほどだという。
一時、日本への移籍話も浮上した。地元メディアによると、今年初め、J2コンサドーレ札幌との間で月給7千ドル(約65万円)、1年契約の条件で交渉が行われた。ビン選手も朝日新聞の取材で「ぜひレベルの高い日本でやりたい」と意欲を見せていたが、チームの事情で契約は見送られた。
子どものころ、わらや果物のザボンの皮をまるめてボールをつくり、裸足で追いかけた。足の速さを買われ、13歳で地元のサッカーチームに入部。才能を開花させた。
週に一度は和食レストランへ行く日本ファン。日本行きの夢はかなわず、年俸大幅ダウンでの再出発だが、プレーできることに「満足している」と語る。3月3日の今季開幕戦でゴールを決め、意地を見せた。
朝日新聞(2013/3/8 朝刊)