2013-02-02

途上国を支える雨水ビジネス

 「天水研究所」代表の村瀬 誠さん(63歳)は、バングラデシュの首都ダッカから南へ直線で約150キロの町・モレルガンジで、1年の3分の1以上を過ごす。
上水道は整備されていないが、洪水の常襲地帯で雨量は東京より3割ほど多い。これをためて飲み水にするタンク「AMAMIZU」を製造・販売し、家庭に運んで取り付ける。そんなソーシャルビジネスを始めた。
 2011年10月に製造工場を開設し、予約を含め200個余りが売れた。
タンクは容量約千リットル。リンゴのような形だ。若い職人2人がモルタルをこね、型枠に塗り付けていた。
「上手になったじゃないか。グッド、グッド」。顔をくしゃくしゃにして話しかけると、職人の顔にも笑みがこぼれた。

 東京の墨田区での保健所勤務の後、40代後半で博士号を取得。雨水利用の普及に努めたとして「ドクター・スカイウオーター」と呼ばれる。
宿を兼ねた事務所から毎朝散歩するたび、「アマミズ、アマミズ」と子どもたちが手を振ってあいさつする。
 バングラデシュの地方の町を拠点に選んだ理由を、「飲み水の問題が最もシビアな所を探していた」と語る。
この一帯では大半の人がため池の水を飲むが、ベンガル湾に近く標高が高いため塩分が混じることが多く、大腸菌などで下痢も起こしやすい。そこでかつては井戸が盛んに掘られたが、自然由来のヒ素で汚染されていたり、鉄分が混じっていたり。
「市民の8割は安全な水を手にできないでいる」とモレルガンジ市の市長は言う。

 最貧困層にも買えるよう、タンクは1基3千タカ(1タカは約1.1円)に抑えた。
「商売として成り立つのか」と言われるが、意に介さない。
 現地滞在中は客の家庭も回る。
農業を営むアブル・カラムさんは、「においがなくておいしい」。
池に水汲みに行く手間も減ったが、ふたが簡単に開くためいたずらや東南が心配とも。そんな声を元に、今のタンクはかぎがかけられるよう改良した。

 昨年11月、工場から約15キロ南の小学校の校庭の一角にサテライト工場を設けた。活動を知った校長らが、提供を申し出た。
 開所式で、あいさつした。
「空を見てください。あの雲は日本につながっていて、雨を降らせてくれます。私たちは仲間。仲間は、困っていれば助け合うものです」
                    「朝日新聞」(2013年1月2日 土曜版 ”be”)